(別紙)

      移植による保護対策についての留意点

 ちょっと見の環境が似ているからといって、簡単に移植適地と決め
るのは危険である。
十分な予備調査、適切な移植作業や事後調査

が重要
である。単に移植先で植物が生きているから移植は成功だっ
たと思うのは早計で、
次世代が繁殖し、以降世代交代が順調に行わ

れていくことが大切である。

 
なお、株数、種子量や時間的に余裕があり、テスト移植が可能な場
 
合はあらかじめ実施してみるのがベストでしょう。


(注):国立公園法、国定公園法、都道府県立自然公園条例、その他の法令では動植物を捕獲・採取す
    る場合許可が必要な場合があります、また個人の土地でも所有者や管理者の許諾が必要です。


1 現存している場所及び移植候補地の気候調査の実施

   
移植対象植物を大まかに、陽地植物、陰地植物、半陰地植物かなど
  に大まかに分類して、移植先をできるだけ複数箇所選定して、年間の
  気温、湿度、日照時間、風向・風速、降雨量、積雪量や霜降下の季節
  的変動や時期・頻度・程度、霜柱の出来具合など(調査した年が平年
  並みか異常年かデータがあれば検討することが望まれる)。

2 土壌構造、土質、土壌水分の季節的変化など植物が根を張る環境の
  調査を実施

  
 腐植土の多い土壌か(団粒構造の発達した土壌か)、赤土などの粘
  土質の土壌か、水はけの良い砂質地かなど、さらには酸性、中性、ア
  ルカリ性か、肥料分の保持力、また水はけの良い土地かなど(特に
  異常干ばつのショックは大きいので、十分な保水力のある土壌か、日
  陰を作る相性の良い植物との混植も検討する

     
腐生植物や寄生植物は分かっていることが少ないので十分な調査
  が必要である。

3 移植する植物の繁殖方法は何かを良く把握する
  
 受粉(他家受精、自家受精、雌雄異株、雌雄異花など)、根茎の進展、
  匍匐枝によるのかなどを調査して役立てる。
   特に虫媒花の場合は、その昆虫がいることがポイントであり、更に花
  の咲く時期と昆虫の発生時期がマッチしていることが大切である。
   匍匐枝(ランナー)は、比較的移植に強い。
4 移植時の注意
 
(1)移植及び播種時期
   
上記3条件が適合すれば移植可能と判断するが、移植作業も大切な
  条件となる。
   まず、移植若しくは播種の時期を十分勘案しなければならない。一般
  的には春彼岸、梅雨時期、9月から10月初旬が良い(台風時期はでき
  るだけ避ける)が当該植物の開花時期や花芽分化の時期を確かめてシ
  ョックを与えない必要がある。
   採取する際には根を傷めないよう注意し、また根を乾燥させないように、
  十分散水したり、採った株はビニール袋などに入れて運び素早く植えるの
  が良い。植える際は根を広げ、細かい土と根が接触できるように土入れし
  て、上から軽く押しておく。必要に応じ散水し、刈草などでカバーしておく。
  植栽の深さは現存地にならうが、冬場へ向かう時期にはやや深く植えたり、
  枯れ草などでカバーするなどした方がよい。

 
(2)病株などへの対処
    
更に現存地で病気が出ていたり、害虫がとりついている場合はそうし
   た株は移植対象にしない方がよいが事前に消毒しておくことも考えられ
   る。ウイルスフリーの苗を移植したい場合は、頂芽培養して隔離した温
   室などで育苗したものを移植することも1つの方法でしょう。

 
(3)遺伝子への配慮
    
いずれにしても、現存種物群落から移植株や種子などを採る場合、ど
   うしても選択圧がかかってしまい、現存集団の遺伝子頻度とは偏りがで
   るがやむを得ない。できるだけ、あちこちの株から採取すべきである。
   花の色などに違いが出ている群落ではあらかじめマーキングなどして、
   バランス良く採取したい。(細胞培養によるクローン利用の場合も同じ。)

 
(4)土壌細菌への配慮
    
活着やその後の生育を考慮すると、現存地の植物の根元の土を根に
   できるだけ付けて、あるいは別途移植先の植穴へ入れて、植物体の根
   の周辺の細菌叢も移し換えた方が良いと思われる。

5 事後調査の実施
 
(1)反省点の調査
     
移植後、次世代を残す繁殖が順調に行われているかをチェックする。
    そうでない場合は反省点を探る。

 
(2)事後対策の実施
    
害獣、害虫や病気の被害を防ぐ対策を実施する。病気の予防には概
   して風通しの良い環境が良いようである。

 
(3)植物遷移への対応
    
植物遷移により絶滅する植物が多いわけであるが、種の多様性(遺伝
   子の多様性)を保つため、人為的に遷移を阻止せざるを得ないと考える。
   したがって生育を妨げる他の樹木などは切り倒す(DNAは簡単に合成
   できても目的の機能を持った遺伝子を作りうる段階でにはなっていない。
   新たな伝染病などに有効な成分を持っているかもしれないので、多様な
   遺伝子を持って多様な物質を生産している植物を絶滅させることは賢い
   とは言えないでしょう)



<参考>動物(両生類、魚類)の移住対策についての
      留意点

1 移住先の環境調査の実施
 
(1)水環境の調査
  
  気象の調査は、植物の移植の場合とほぼ同じであるが、特に水環境に
   ついての調査が必要となる。
    水温や水質についての年間変動の調査、特に夏期の水温上昇は致命
   的となるので注意が必要である。

 
(2)移住先の地形的・構造的調査
   
 移住先の地形は、現存地に似ているか、淵・瀬・両者の併存があるか、
   河床構造は似ているか、巣穴・隠れ穴等はあるか、洪水時の避難は可能
   か、湧き水があって夏期の水温が低く、溶存酸素濃度が高いか、あるい
   は河畔林の適度な茂りはあるか、更に重要なことは年間を通じて生存・生
   殖に必要な水量が確保でき、その流域の集水域は、将来大規模な開発が
   行われないと見込まれるところが望ましい。
    池の場合は、水深や遠浅の面的な広がり、水流がない場所があるか、
   年間を通して適切な水位を保てる流入水がある地形・地域かなどを調査
   する。更に、水生植物の繁茂状況調査も必要であろう。
 
(3)餌の確保の可能性調査
   現存地で何をどのくらい食べているかの調査が大切である。季節的に餌
  としている、プランクトンや水棲昆虫の種類に変化があるかもしれない。困
  難を伴うことだが特に幼生の食べ物が何かを確認しておく必要がある。
   移住先で同種類の餌・量が十分あるかを季節変動を含めて調査しておく
  必要がある。
2 移住させる個体数や複数の移住先の確保
 
(1)移住させる個体の選別
  
 遺伝子的に同一性が保たれていると考えられる水域や池などの閉鎖水
  域では、そこからの個体群は同一の移住先へ移すのが良いと考えられる。
  雄雌の個体判別が可能な場合は現存地の性比で行う。成体と幼体の比率
  はどうするか難しい問題であるが、一般的に若い個体ほど環境適応能力が
  高いのでやや幼体の比率を多くするのが良いと推量される。外見から雄雌
  が判別できないときは、ランダムに選ばざるをえない。
   一般的に個体群の遺伝子変異を保つには、雄の数を多くした方が良い
  が、生存にかかる餌の奪い合いでは体力の勝る雄が勝ち、雌の個体数が
  極度に減少しては逆効果である。

 
(2)餌の量による個体数の限定
   
一番の問題は移住させる個体数が餌の量に寄って制限されてくることで
  ある。やみくもに多くの個体を移住させても、死亡する個体を増やすだけと
  なる。
  (3)近交退化の問題
   
次いで、複数の移住先が確保され、それらの間で個体の移動が可能で
  あれば、近交退化による絶滅は避けられる可能性が高いが、滝や堰堤な
  どで仕切られた閉鎖性の淵や池では個体間の移動ができないので近親交
  配による遺伝子の均一性が増し、繁殖不能に陥ったり、たとえ世代を重ね
  ていても伝染病ですべての個体が死亡して絶滅してしまう可能性もある。
   こうした近交退化に対処するには、近隣の個体群からの個体の移入が考
  えらるがこの点については、突然変異率も絡んでくるので専門家の指導を
  受けるのが良いと思われる。

3 外敵からの保護
   
獣、鳥類(サギ、カワウなど)やヘビなどの外敵に対して、希少な個体数
  になった場合は ネットなどの設置による保護対策も必要でしょう。
   病気にかかっている個体は、できるだけ移住しないようにし、水カビ病な
  どは駆除してから移住させるのが良いと考えます。

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